世紀末ウィーン ・ワルツに乗った帝国の最後の輝き

みなさんこんにちは。

19世紀後半から世紀末までのオーストリア・ハンガリー帝国の歴史は、度重なる対外戦争の敗北とそれによる領土の喪失、国内においては10に及ぶ民族が、それぞれ支配者であるハプスブルク家を頂点とするドイツ人階級に対して自治と独立を要求するなど複雑な民族問題が噴出、また、前回お話した様に、皇帝家であるハプスブルク家でも非業の死を遂げる人物が相次ぐなど、政治、軍事の両面における混乱が帝国を大きく揺るがしていました。

この様に帝国が凋落していく状況の中で、やがて人々は次第にその関心を「文化」の面に向けていく様になります。

この様な流れが醸成されていったのは、もともとオーストリア・ハンガリー帝国が多くの民族で構成される多民族国家であり、いわゆるコスモポリタン的な要素を十分に兼ね備えていた事と、折りしもその頃帝国の都ウィーンでは、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世による大規模な帝都大改造が進行中であり、帝国内外から民族を問わず多くの人々が仕事を求めて移住してきた事により、これらの人々によって持ち込まれて来た思想、哲学、音楽、美術、文学、建築などの様々な有形無形の産物がウィーンの人々に受け入れられ、さらにそれを大きく発展させて見事な世紀末の文化の華を開花させる事になったのです。

そしてその様に帝国が導かれていった背景には、他ならぬ時の皇帝フランツ・ヨーゼフ自身の意向が大きく反映していたのです。


KaiserFranzJosef002wikipedia.jpg

上がオーストリア・ハンガリー帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世です。(1830~1916)30代後半から40代の頃と思われます。

皇帝は帝国内の多くの民族の中でもそれまで特に冷遇されていたユダヤ人に対して特別に寛大な姿勢をとります。職業、居住、結婚など、それまでユダヤ人にのみ課せられていた制限を撤廃し、それによって多くのユダヤ系の人々が帝都ウィーンに集まってきました。そして今回お話しする世紀末ウィーンで花開いた文化の多くが、それらユダヤ系の人々によって形作られていったのです。

まずウィーンといえば音楽の都として有名ですが、この時代に最も活躍したオーストリアの音楽家が「ワルツ王」として知られるヨハン・シュトラウス2世でしょう。


411px-Johann_Strauss_II_(3).jpg

上がヨハン・シュトラウス2世です。(1825~1899)彼が「2世」と呼ばれるのは別に彼が王侯貴族であるからではなく、単に父親と同名であるからです。彼の父「1世」も同じく音楽家であり、ユダヤ系の血を引く人でした。そしてウィンナ・ワルツの基礎を築いた事から「ワルツの父」と呼ばれています。彼には長男ヨハン、次男ヨーゼフ、三男エドゥアルトという3人の息子がおり、父の影響と才能を受け継いで3人とも作曲家となりました。つまりシュトラウス家は音楽一家だったのです。そしてシュトラウス・ファミリーの中で最もその才能を花開かせたのが長男ヨハンでした。(彼は父の築いたワルツの基礎を拡大発展させ、多くのワルツを作曲した事から「ワルツ王」と呼ばれています。)

彼が作った曲は大変多いのですが、その中でみなさんも聞いた事がある有名なものは、かつて1968年製作の映画「2001年宇宙の旅」で使われた事もある「美しく青きドナウ」でしょう。またその父1世が作曲したもので、同じく誰もが聞いたことのあるものといえば、軽快なテンポでコンサートでは観客も手拍子で参加する「ラデツキー行進曲」などがありますね。

そのヨハン・シュトラウスと同じ時代を生きた作曲家で、親しく交流したのがヨハネス・ブラームスです。


JohannesBrahms.jpg

上がヨハネス・ブラームスです。(1833~1897)彼はユダヤ系ではなくハンブルク出身の純粋なドイツ系で、ベートーベンの熱烈な崇拝者でした。(そのせいか性格もベートーベンに似たところが多く、無愛想で人付き合いが苦手で、周囲とのいさかいも多かったそうです。しかし、芸術家には短気で怒りっぽい人が結構多いですからね。笑)

彼が作った曲でみなさんもご存知なのは「ハンガリー舞曲第5番」ではないでしょうか。

さらにこの時代に活躍した作曲家には、アントン・ブルックナーやグスタフ・マーラーがいます。この2人は師弟関係にあり、生涯を通じて親しく交流しました。


img_921397_24395510_0.jpg

上がアントン・ブルックナーです。(1824~1896)ブルックナーはユダヤ系ではなくオーストリア・ドイツ人であり、優れたオルガン奏者でした。そしてウィーン大学で音楽の講義を受け持つ教授として指導した教え子の中に若きマーラーがいました。

456px-Gustav-Mahler-Kohut.jpg

そして上がグスタフ・マーラーです。(1860~1911)彼はボヘミア出身の裕福なユダヤ人実業家の次男として生まれ、父親は家業の酒造会社を継がせるつもりでしたが、息子の音楽的才能を見抜いて早くからその方向への教育を熱心に薦めた理解者でした。成長した彼は優れた指揮者、音楽劇場監督としては名を馳せましたが、肝心の彼が作曲した曲は当時の聴衆には理解されず、また彼がユダヤ系出あった事から逆に多くの非難を浴び、残念ながら彼の存命中は作品が評価される事はありませんでした。しかし近年は再評価が進み、現在は数多く演奏されています。(この人の曲ですが、演奏時間が非常に長いものが多いので、クラシックファンでも好き嫌いの分かれる作曲家です。ご興味のある方はその点を踏まえてお聴きください。)

音楽の分野はこの辺までとして、他の分野に目を転ずると、文学の世界においてはフランツ・カフカがいます。


img_426270_10743905_0.jpg

上がフランツ・カフカです。(1883~1924)彼は顔立ちを見ればすぐ分かる様に典型的なユダヤ系で、マーラーと同じボヘミアのプラハで裕福な醸造家の長男として生まれました。しかしマーラーの場合とは逆に、カフカの父親は現実主義のたたき上げの経営者で、息子の繊細な感性や文学活動に関心も興味も示さず、この親子は終生理解し合えなかった様です。彼は成長すると保険局に勤務し、そこで巧みな文書作成能力を生かして主任にまで昇進し、そのかたわら執筆活動をしていました。つまり純粋な作家だったのではなく、「サラリーマン」だったのです。(そのため彼の作品は未完成のものが多く、彼が亡くなってから友人によって出版されたものが高い評価を受ける様になりました。彼の作品で有名なものは「変身」「審判」「城」「失踪者」の4部作がおすすめです。)

このカフカという人は、写真を見ると少し怖そうな印象を受けますが、実際は物静かで大変礼儀正しく、意見を求められた場合を除いては常に聞き役に徹し、自分が意見を述べる時でも持論を押し通すのではなく、相手の話を尊重しつつユーモアを交えながら控えめに述べ、(現実には相手を言い負かそうとする幼稚な思考の人間が多いですからね。)勤務先でも普通なら目にも止めない掃除人にもにこやかに挨拶するなど、とても温厚で心の優しい人だったそうです。そして彼はその人柄から多くの人々に愛され、彼の周囲の人々で彼を悪く言う人は皆無でした。


さらに美術の方面に目を向けると、代表者に画家のグスタフ・クリムトがいます。

20130201081904.jpg

上がそのグスタフ・クリムトです。(1862~1918)彼もユダヤ系で、父親が彫刻関係の職人であった事から最初はその道を目指しますが、次第に絵画の世界に引かれてその才能を大きく開かせました。

imgb13b707bzikczj.jpg

彼の作品で最も有名な「接吻」の絵です。クリムトは特に「金色」を好み、彼の作品には金箔が多く使われています。

学術関係に目を向けると、精神分析の父といわれ、「心理学」という新しい分野の学問を興したジークムント・フロイトがいます。

Sigmund_Freud_LIFE.jpg

上がジークムント・フロイトです。(1856~1939)彼もユダヤ系オーストリア人で、人間の心の奥底に潜む深層心理を体系化した「心理学」の生みの親ですね。

Sperl_1.jpg

Heiner1.jpg

b_90857_1.jpg

19世紀末のウィーンはこれらの著名な文化人たちが上の様な快適なカフェに集い、薫り高いウィンナ・コーヒーやケーキ、クロワッサンなどの軽食を摂りつつ、シュトラウスのワルツを聴きながら何時間でも心置きなくあらゆる分野について自らの持論を相手と語り明かし、それらに刺激を受けた人々がさらに鋭敏な感性を研ぎ澄ませてそれぞれの作品や研究にそれを反映させてゆき、「世紀末ウィーン」と呼ばれる夢の様な優れた文化の華が咲き誇る事になりました。(本場ウィーンのカフェは数百席ものテーブルを擁する広大な店舗内で、開店中は誰でも好きなだけゆったりと優雅に時を過ごす事が出来ます。画像のケーキもクロワッサンもおいしそうですね。)

そしてそれは、世界の歴史においてもはや中心ではなくなっていたオーストリア・ハプスブルク帝国の放つ、最後の輝きでもあったのです。

次回に続きます。
スポンサーサイト

テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

フリーエリア
フリーエリア
にほんブログ村 歴史ブログ 世界史へ
にほんブログ村 ランキングに参加しております。よろしければ「ポチッ」として頂ければ嬉しいです。
プロフィール

コンテバロン

Author:コンテバロン
歴史大好きな男のささやかなブログですが、ご興味のある方が読んで頂けたら嬉しいです。

最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセスカウンター
オンラインカウンター
現在の閲覧者数:
リンク
QRコード
QR